LIC STORY
2018年1月22日

『ガイドライン2013』で見るALSの呼吸管理とリハビリのあり方

今回のLIC STORYはインタビューではなくALSに関連する情報提供になります。

ALS患者さんにとって、現時点における最適な治療方針を示した『筋萎縮性硬化症診療ガイドライン2013』。有効な治療方法が確立されない中でのALS臨床は、多くの知見と研究成果を裏付けとする治療・リハビリ方法の選択が望まれます。今回は、最新ガイドラインの中でも治療方法やリハビリ方法と関連の深い「呼吸管理」と「リハビリテーション」の中から、具体的な療法メニューや有効とされる道具・機器などを取りあげてご紹介します。

最新ガイドラインの意義

『筋萎縮性硬化症診療ガイドライン2013』は、日本神経学会が医療従事者向けに発行する、ALSの治療方針や治療内容、その根拠となるエビデンスレベルを解説したガイドラインです。かつて、筋萎縮性硬化症を含む6種類の神経難病の治療基準を定めた『治療ガイドライン2002』が発行されましたが、新しい知見を加えた改訂版が本ガイドラインにあたります。

客観的な評価基準に基づく治療方法が詳細に説明されており、臨床現場における治療方法の方向性を示す指針として、各医療機関で活用されています。ALS症状に対する治療方法はさまざまで、どれがベストか一概にいえるものではありません。症状の克服を治療目的とする患者さんもいれば、QOL改善を目指す患者さんもいて、どのアプローチが最適であるかは各々異なるのが実状です。本ガイドラインは、臨床実験データに基づくエビデンスを提示することで、診療判断の指標に生かしてもらい、なおかつ患者さんにとってのベストな治療を見つける参考書としての役割を持っています。

呼吸管理

呼吸機能障害のリハビリ方法とそのエビデンス

ALS患者さんにとって呼吸機能障害は、生命予後に関わる大きな課題です。本ガイドラインでは速やかな呼吸理学療法の各種メニューの開始を妥当としています。(エビデンスレベルⅥ)

(※エビデンスレベルは質の高い順にⅣb>Ⅴ>Ⅵとなります)

<主な呼吸理学療法>

● 呼吸筋の訓練

● 胸郭および呼吸補助筋の可動域を維持するための訓練

● 咳や排痰、胸郭や横隔膜の柔軟性維持のための徒手的呼吸介助

● 息溜めや舌咽頭呼吸など、肺の弾性を維持するための訓練

● 排痰法

ガイドラインでは、NPPV(非侵襲的陽圧換気療法)や呼吸リハビリ機器を活用した呼吸筋の増強と柔軟性確保が、呼吸不全の進行阻止のうえで重要であると説明します。その一方で、過剰な運動やトレーニングはかえって筋力低下を招く危険性があるとし、負荷のかけ方や中止時期は適切に見極めることが大切としています。

排痰方法とそのエビデンス

呼吸管理における排痰方法には、手技排痰と機器を使った排痰の2種類があり、症状の進行レベルに応じて適切に使い分ける必要があります。

用手排痰

体位ドレナージ療法や腹臥位療法、胸部介助法、ハフィングなどの方法があります。

機器による排痰

● 口にくわえて痰の排出を促す機器(非能動型呼吸運動訓練装置)

● 適切な振動を身体に加えて排痰を促す高頻度胸壁振動法

● 徒手介助併用による咳の介助(MAC)=エビデンスレベルⅣb

● 特殊な人工呼吸機を用いた肺内軽打換気法

これらの機器や療法は、理学療法士と主治医が連携を取りながら、患者さんの症状に併せて適用します。

人工呼吸療法とそのエビデンス

本ガイドラインによると、TPPV(気管切開下陽圧換気)やNIVなどの人工呼吸機器の活用は、患者さんの生命予後に大きな影響を及ぼし、かつQOLの改善効果も期待できるとしています。

NIV

NIVは、非侵襲的陽圧換気(NPPV)と陽・陰圧式体外式人工換気(BCV)の2種類があります。BCVは保険適用外のため、実際の臨床現場ではほとんどがNPPV使用というのが現状です。NPPVは比較的軽度な呼吸障害の患者さんに有効ですが、換気効率が悪く、マスク着用による圧迫感などのデメリットを抱えます。(エビデンスレベルⅥ)

TPPV

TPPVとは、気管切開して取り付ける人工呼吸機器です。NPPVによる吸気量獲得に限界を感じた場合などに適用されるケースが目立ちます。換気効率にすぐれるものの、気管切開措置による身体への負担や、痰の分泌量が多くなるなどのデメリットを考慮する必要があります。(エビデンスレベルⅣb)

リハビリテーション

運動機能障害におけるリハビリ方法とそのエビデンス

四肢や体幹などの運動機能に障害が見られる場合は、ROM(関節可動域)の確保を目的とするトレーニングが推奨されます(エビデンスレベルⅥ)。ストレッチやROM維持訓練は、症状の進行期に関係なく、有効とされるリハビリです。特に重視したいのが肩関節や胸郭で、この箇所のROMが制限されれば、呼吸機能低下につながるため、早期トレーニングが最善とされます。

構音機能障害におけるリハビリ方法とそのエビデンス

発音が正しくできない構音機能障害に対しては、発声訓練を行い、発音・発話の明瞭化を目的とするリハビリテーションの導入が望まれます(エビデンスレベルⅥ)。過度の訓練で呼吸筋疲労を招かないためにも、適度な休憩を入れながら実施することが重要です。

構音機能障害によってコミュニケーションが困難となった場合、早期導入を検討したいのが「拡大・代替コミュニケーション手段」です(エビデンスレベルⅥ)。これは身振り手振りや表情、まばたき、筆談などを使って気持ちや意思を伝える方法で、QOLの維持向上に役立つとされます。

ADL向上に有効な補助具とそのエビデンス

ADL(生活動作)維持・向上のための有効な補助道具として、車いす・上肢装具・短下肢装具、意思伝達装置などがあります。福祉器具や電動ベッド、入浴補助道具などもこれらの部類に入ります。身体に直接装着したり、日常生活における移動や諸々の動作を支えたりするための機器は、それらの特徴を理解すると同時に、患者さんの症状やライフスタイルに合わせて適切に選択することが大切です(エビデンスレベルⅤ)。

まとめ

重度の呼吸障害に悩まされるALS患者さんにとって、「どんな処置を施せば、日常生活やリハビリに希望が持てるか」という観点で治療を決めることはとても大きな意味を持ちます。科学的根拠に基づく治療のロードマップがあれば、実践中のリハビリ訓練やトレーニングにも多くの患者さんが自信を持って取り組めるでしょう。今後さらに新しい知見が登場して、ガイドラインのバージョンアップがなされることにも期待が持たれます。

参考サイト

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/als2013_index.html