神経筋疾患の患者さんの生命予後には、呼吸や咳嗽に必要な筋力低下によって引き起こされる呼吸障害が大きく関係します。病状が進行すれば肺活量が低下し、結果として胸郭や肺の柔軟性が損なわれ、呼吸障害が発生します。
現在、患者さんの呼吸障害に対する医療ケアは、非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation ;NPPV)や気管切開下で行われる侵襲的陽圧換気療法(tracheostomy positive ventilation ;TPPV)等の人工呼吸器を用いた対症療法が行われています。また、患者さんは、呼吸障害により肺の拡張など胸部の活動量が減少することから、肺や胸郭のコンプライアンス(柔軟性)が著しく低下することが知られています。肺および胸郭のコンプライアンスの低下は、患者さんの息苦しさや疲労感、および不安や精神的苦痛を増強させるため、コンプライアンスを維持することが安楽や生命後に望ましいため、適切な呼吸リハビリテーションが必要となっています。
神経筋疾患の患者さんに対する呼吸リハビリテーションは、これまで慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease ;COPD)に対して行われる腹式呼吸や呼吸介助等が同様に行われていました。しかし、肺が虚脱し拘束性換気障害を起こしている患者さんにおいては、安楽が得られず、また有効性を示すことが困難でありました。このような中、近年は有効な呼吸リハビリの1つとして、最大強制吸気量(Maximum Insufflation Capacity ;MIC)の測定を実施することで肺を加圧することがリハビリとなるとして、臨床現場では、本手法による肺や胸郭の柔軟性(コンプライアンス)の改善が実践されています。しかし、MICはair stack(息止め)する能力が不可欠であるため、陽圧に慣れていない患者さんや球麻痺を起こしている患者さん、また気管挿管や気管切開をした患者さん等の呼吸障害が進行した場合には実施できないという問題点がありました。その解決策としてBach(2008)らが提唱した一方向弁を利用した最大強制吸気量(Lung Insufflation Capacity: LIC)があり、国内の先進的な医療機関でも実践されるようになってきています。これはair stack(息止め)ができない患者さんに対しても一方向弁を利用することでMICかそれ以上の吸気量が得られることから、安全かつ多くの患者さんに使用できることが期待されています。
しかしながら、LICは専用の機器がなく、各医療機関でいくつかの人工呼吸回路を組み合わせた自主製作機器が利用されていたため、一般化が難しく、多くの患者さんへ積極的に導入できるものではありませんでした。そこで、LICを有効的かつ安全に実践できる呼吸リハビリテーション機器の開発が行われ、誕生した機器がLICトレーナーであります。