LIC STORY
2017年10月24日

“ALSのリハビリで大事なのは、肺を柔らかくすること”斉藤 敦子さん【前編】

ALSの有効な治療法が見つからない中で、より多くの情報を集め、最良の選択に結びつけるALS患者さんのご家族がいます。茨城在住の訪問看護師・斉藤敦子さんです。ご主人がALS患者である斉藤さんは看護師として、多くのALS患者さんと接してこられました。インタビュー前編では、斉藤さんにALSにおけるリハビリのあり方やLICトレーナーのメリットについてお聞きしています。後編も含め、ぜひ最後までお読みください。

リハビリは、“将来への備え”

――斉藤さんのご主人は現在、在宅でリハビリをされているとのことですか、どのようなリハビリをされていますか?

斉藤:月1回の大学病院の受診、在宅診療以外は、週に1回理学療法士か作業療法士のいずれかに実施してもらうリハビリと、同じく週に1度の言語療法士のリハビリ、連日訪問看護師さんが来て行うリハビリがあります。

リハビリスタッフは拘縮予防(筋肉の固まりを防ぐリハビリ)や立ち上がり、食事、トイレなどの生活動作、関節の曲がり具合のチェックや、改善に向けたアドバイス、LICトレーナーの実施をしてくれます。訪問看護師さんは、拘縮予防と肺の外からのアプローチで呼吸筋の柔軟性確保に重点を置くリハビリを担当してもらっています。

――斉藤さんご自身、訪問看護師として、ALS患者さんのリハビリ現場を見てこられました。その経験もご主人のリハビリ計画に生かされているのでしょうか?

斉藤:関節は動かさなければ筋肉が固まってしまい、そうなると洋服を着替えたり、体の向きをかえたりの動作が辛くなってしまいます。本人も苦痛ですし、看護するスタッフの負担も増えてしまいます。そんな患者さんを何人も見てきたので、動けるうちにリハビリを積極的にやっていく方針ですすめています。

――今の段階で実施する必要なリハビリが、この先症状が重くなったときに生きてくるわけですね。

斉藤:関節を動かして柔軟性をキープすれば、生活上のいろんな動作も楽になります。将来、ALSを治す薬が出てきて、そこで体が固まって動かなかったら、何の意味もなくなります。主人の自由を奪わないために、今のうちからできるリハビリはやっておきたいんです。

それと、早期のリハビリ導入は、患者と医療チームとの関係作りにも役立ちます。ALS患者さんは、症状の進行に伴い、コミュニケーションも十分にとれなくなっていきます。まだしっかり話ができる時期から、どんな態勢が痛いのか、この人はどういうものを好むのか、あるいは子どものことならよくしゃべるけどこんなことを聞かれるのは嫌だとか、その人がどんな人で何を求めているか、リハビリスタッフ、看護師さんがリハビリ・看護に早期に介入することで分かってもらえるようになります。リハビリ、看護師が早期に入ってもらうことは大切なのです。

LICトレーナーで“内側から肺を軟らかく”

――ALS患者さんのQOLを確保するうえで重要なリハビリですが、その中でも呼吸筋の改善に役立つのがICトレーナーです。このリハビリ機器はいつ頃から使い始めたのでしょう?

斉藤:LICトレーナーのことを知ったのは去年(2016年)の11月あたりでした。知り合いからLICトレーナーの話を聞いたときは、「そんなにすごいのあるの?」と思ったくらいです。それから情報を集め、主治医の先生に相談して、今年の1月から使い始めるようになりました。

――使ってみての感想は?

斉藤:主人は、まずマスクがしっかりとフィッティングできていること、また本人の呼吸にあわせてアンピューバックを加圧してもらうと、肺が膨らんでいる印象があるそうです。家族やリハビリスタッフが胸郭の上がり方を見ても「膨らんでいるな」と感じます。

少ない回数からはじめたのですが、苦しいとか圧迫感があるとかわ言わず、むしろもっと押してと言うくらい。こんなに押して大丈夫かなと心配になったくらいです。

――LICトレーナーは、患者さんの体格や肺活量によって、かける圧の量も異なりますよね。ご主人の肺活量は一般より大きかったみたいで、介助するほうとしては大変ではなかったですか?

斉藤:これは慣れが必要だな、と。主人は体が大きいこともあって、いくら空気を送ってもなかなかいっぱいになりません。それで、息子と娘がマスクをおさえて、私が両手で一生懸命アンビュバックを押して何とか圧を加える感じで実施していました。主人は必要な肺活量が一般の人と比べ大きいため、ペースも速いしタイミングをとるのも難しい。圧を加えるタイミングが合わないと、空気が漏れて本人が苦しむことになってしまいます。

ただ、LICトレーナーには安全弁が付いているので、これがあると安心して使えますね。主人はホースの口を押さえる握力がないので、仕方なくテープで固定するなど工夫しながら実施していましたが、安全弁が付いている以上、一定の圧がかかれば自然と抜ける仕組みがあるので、決め打ちで利用できる点は大きいです。

――操作する側がそれに慣れれば、かなり便利に使えるリハビリ機器ということですね。

斉藤:リハビリのスタッフとも話していますが、マスクをきちんとフィッティングしてアンビュバックを加圧するには、ある程度の経験が必要だと感じでいます。マスクを一番いい位置にセットした状態で、アンビュバックを加圧するには技術も必要です。また、加圧に時間がかかると本人は苦しくなってしまうのでテンポ良く加圧することも大切ですね。ただ、技術さえ習得すれば、リハビリスタッフはもとより使えるし、家族も使えますので、みんなが練習して使えるようになれば、本人にとってもいい感じでリハビリできると思います。

――LICトレーナーを使って、具体的にはどのような効果がありましたか?

斉藤:呼吸機能検査を毎月していますが、右肩下がりだった数値が一時的に横ばいを維持することができました。家族で毎日実施している間は、肺活量がずっと落ちなかったです。

――肺が軟らかくなり、広がったことで肺活量もキープできたのですね。やはり、LICトレーナーはその点が大きなメリットということになるのでしょうか?

斉藤:何といっても肺の柔軟性を確保できることは大きいと思います。私は訪問看護師になる前、総合病院の呼吸器内科で勤務していたので、肺の柔軟性を保つことの重要性は十分理解していました。呼吸リハビリの現場では本業の理学療法士さんが体の外側からアプローチして、胸郭を広げてくれるわけですが、その手技がもたらす効果はとても大きいんです。

LICトレーナーは反対に、肺に直接空気を送り込む中からのアプローチで、直接肺の中へのアプローチは理学療法士でもできません。この方法で効果的に肺を軟らかく保つことができれば、排痰も良くなるし、呼吸器を付けても肺の広がり方が良くなります。

あと、きちんと操作さえ習得すれば、家族で実施できるところも大きいですね。そのほかにも、安全弁がついていることで安全に使用できる、気管切開後も使用できるなど、いくつか利点が挙げられると思います。

――使えば使うほど、肺の柔軟性確保に期待が持てるLICトレーナーですが、今はどれくらいの頻度で実施されていますか?

斉藤:今は理学療法士や作業療法士、言語療法士の方たちに実施してもらっているので、週に2回程度にとどまっています。導入当初は毎日実施していて、できればそれを続けたかったのですが……。主人の筋力も次第に衰え、入浴や歯みがきなどできないことが増えた結果、家族の介護量が増えたことで毎日家族が実施することは難しくなりました。それで訪問看護師さんにも看護をお願いすることになりました。今年4月には胃ろうも造設し、看護量も増えているので、訪問看護師さんにLICトレーナーを使ったリハビリまでお願いするのは、正直難しいです。

でも、呼吸リハビリは続けることに意味があります。LICトレーナーを使い続けている患者さんの中には、肺活量が元気な頃の状態に戻っている人もいますし、主人も毎日使っていたときは肺活量が落ちませんでした。マンパワーさえ確保できれば、またLICトレーナーを毎日続けるリハビリを目指したいですね。(後編「ALSと闘ううえで、情報は命。LICトレーナーについてもっと発信を!」に続く)