LIC STORY
2017年10月24日

“自分の人生を生きる”ALSと真っ正面から向き合う高野元さん

「他人の人生ではなく、自分の人生を生きると決めました」

専用のパソコンソフトを使い、インタビュアーである私たちに力強い言葉を投げかけてくるこの人は高野元さん。ALSの患者さんです。高野さんは2013年1月にALSを発症、翌年の10月に告知を受けました。実は高野さんは、LICトレーナーがプロトタイプのころから使っていただいている“LIC愛用者”でもあります。

そこで今回は、高野さんにインタビューを実施。LICトレーナーを使った率直な感想を聞くとともに、今後の高野さんの人生について語ってもらいました。

LICトレーナーを使ったリハビリ

経営コンサルタントだった高野さんがALS(筋萎縮性側索硬化症)の告知を受けたのは、2014年10月。そのときの心境は、

「とにかくがっかりしました」

しかし、病気になってはじめて気づかれたことも多かったそうです。

「思っていたより多くの人たちが応援してくれたこと、経済的な不安は結局何とかなったこと、医療・介護・行政の人たちが患者と家族に寄り添ってくれること」

ALSを発症し、告知を受けてからも、「自分の人生を生きる」と決めた高野さんは、病気になったことすらも前向きに捉え、症状の改善を目標にリハビリを続けています。どうすれば今の症状が改善するか――その方法を探している中で出会ったのがLICトレーナーでした。

「国立精神・神経医療研究センターの寄本先生にプロトタイプのころからLICトレーナーを試させてもらい、呼吸筋のリハビリができることを知っていたので、ぜひ使ってみようと思いました」

日々のリハビリのうち、高野さんが重視しているのは

(1)関節周りの柔軟性改善
(2)立位をとる
(3)口から食べる
(4)呼吸筋の柔軟性確保

ALS患者さんたちが楽に呼吸をするためには、呼吸筋の柔軟性を高めるリハビリが欠かせません。高野さんの場合、LICトレーナーを使うようになってこの部分が改善できたとのことです。

LICトレーナーの効果と、これから望むこと

まだプロトタイプだった頃は、病院に通わなければ使えなかったLICトレーナー。それが製品化されたあとは、自宅でのリハビリでも使えるようになり、改善の実感も持てるようになったと高野さんは言います。

「LICトレーナーを使うのは、週に3~4回です。訪問看護師に実施方法を覚えてもらっているところなので、いずれは毎日やりたいです」

毎日やりたいと思うその理由は、「改善する実感が持てるので」。具体的な改善部分を聞くと、「一時期93%まで落ちていた血中酸素濃度が、95-97%に回復しました」という声が返ってきました。

「結構満足しています。今も使えるし」

と、LICトレーナーに対し率直な感想を述べてくれた高野さん。と言っても、すぐに改善の実感が持てたわけではありません。「使い方に慣れてから、改善の実感が得られた」と言いますから、慣れるまではやはり多少の苦労もあったようです。

LICトレーナーを安全に使うためには、看護師さんや理学療法士など、周りの医療スタッフのサポートも大切です。LICトレーナーに関しては、「看護師さんに覚えてもらっている」ところだそう。「リスクの範囲がはっきりすれば、(看護師さんやリハビリスタッフさんが)やってくれます」と、周囲への期待と要望もにじませました。

それでも、もっと改善して欲しいところもある、と高野さんは言います。

「『もう肺がいっぱい』を知らせる方法が欲しい。合図に手を動かしているが、動きが小さくて分かりにくい」

LICトレーナーを使うALS患者さんの多くは、手足の筋肉が思うように動かせません。そのため、肺の中の陽圧がいっぱいになったときの合図をどう送るかも、ひとつの課題です。たとえば、陽圧がいっぱいになったことを機器が認識し、自動的に加圧をストップするオートメーション機能が備わる、たとえば、圧が高まった際に自動的に圧が抜ける機能があれば、より使いやすくなることが期待できます。

そのような機能が作れると思いますか?と高野さんに聞くと、こんな答えが返ってきました。

「今の製品が作れたのだから、できるはずです」

実際に、使い方の部分に関して患者さんから同様の意見をいただく場合があります。そのような患者さんの声を真摯に受け止め、機器の改良につなげていくこともまた、医療機器メーカーの務めです。高野さんからいただいたご意見を参考に、これからの機器開発と改良の参考にしていければと思います。

病気と向き合うために大事なこと

「ALSは、確かに難病ですが、人生に時々現れる大きな壁のひとつに過ぎないと考えるようにしています。また、健常者でなくなることで、健常時代と比較して過去にとらわれないようにしています。今、ここに 集中してできることを探して取り組む。仲間を見つけて、一緒に励まし合うこと」

40歳になる頃から、『他人の人生を生きない』ことを意識してきたと言う高野さんは、今もブログで闘病生活のことや、病気について思うことなどを積極的に発信しています。高野さんのブログを読んで、勇気をもらっている患者さんも多いはず。そこで今回、同じ境遇にいる患者さんたちに対し、次のようなメッセージを頂きました。

「なぜこの病気で悩むのか、人並みができなくなるからです。人並みは、他人との比較なので、自分の人生ではありません。自分を受け入れてできることに集中すれば、結構できることもあります。それでいいじゃないですか」

高野さん自身もまた、チャレンジしたい目標があります。それは、「イノベーションファシリテータに復帰すること」です。

イノベーションファシリテータとは、高野さん曰く、「自分で考える人たちを集めて、そこから共通のゴールを作り出す仕事です」。既成の考えにとらわれず、自由にものを考える発想力が、ときに大きな課題を解決する原動力となり得ます。有効な治療薬が見つかっていないALSを取り巻く現状こそ、イノベーションが求められると言っていいかもしれません。

「難病患者を取り巻く環境が、この仕事にピッタリなんです」

そうイノベーションファシリテータに対する思いを語る高野さんは、「ハイテクを使って復帰するつもりです」とも答えてくれました。ご自身のブログでも書かれていますが、高野さんはあくまでこれからの未来を明るく捉え、将来あるべき自分像も具体的に描いています。

「ALSは、10年後に治療法が見つかり、20年後には私も相当回復していると思い込むことにしました」

高野さんブログ:http://blog.gentak.info/

最後に、ALS患者としての、医療機器メーカーに対する切実な声をもらいました。

「患者の多くは、呼吸筋のリハビリができることを知りません。頑張ってください」

ALSの呼吸障害は、呼吸リハビリをすれば改善の方向へ向かえること、そのためにはLICトレーナーのような在宅でも使えるシンプルなリハビリ機器の普及が求められること、それらの情報をもっともっと発信していかなければいけません。

***

気管切開手術を行い、言葉を発することができない高野さんは、専用のパソコンソフトを使い、私たちの質問に対しひとつひとつ丁寧に答えてくれました。貴重な時間を割いてこういう場を設けてくれた高野さんに、感謝したいです。

高野さんが最後に述べられたように、呼吸筋のリハビリができることを知らない患者さんは多いです。現在、私たちはLICトレーナーを医療現場に置かせてもらい、少しでも多くの患者さんたちに使い心地やLICトレーナーで得られる呼吸の深さを体感してもらう取り組みを進めています。呼吸リハビリを行って、日々の生活が少しでも楽になってもらう。今後もそのお手伝いをさせていただければと思います。