LIC STORY
2017年7月15日

“ALSの呼吸療法に役立つLICトレーナー®の仕組みと特徴”関根 敦

“やわらかい肺をつくる”をコンセプトに生み出されたLICトレーナー®。
今回は、カーターテクノロジーズ株式会社の関根敦代表取締役がインタビューに答えるかたちで、LICトレーナー®の仕組みや特徴、メリットなどを深掘りして語ります。

息止めできない患者を支える呼吸医療

――まずは、LICトレーナー®の仕組みと特徴について教えてください。

関根:LICトレーナー®は本体とチューブの2つで構成されています。本体にはIN側とOUT側があって、IN側に空気を送るアンビュバック(蘇生バック)、OUT側にマスク、そしてリリーフ弁にチューブを取り付けて使用するのが基本です。
LICトレーナー®の最大の特徴は、IN側に内蔵された一方向弁の働きです。これがあるおかげで息止めができない患者さんでも肺の中で陽圧を保つことが可能となります。

――たとえば、MIC(最大強制吸気量)などは息止めできない患者さんには適用できません。それがこのLICトレーナー®では可能となるわけですね。

関根:陽圧を加えて呼吸補助をするのがMICですが、息止めできない患者さんに使用しても、送り込んだ空気がすぐ戻ってしまうという難点があります。息止めできない患者さんには、その役割を担う「喉」の機能が必要で、その働きをしてくれるのが先ほど説明した一方向弁です。これがあるだけで、患者さんがリリーフ弁を押さえたり外したり、指先ひとつでコントロールが可能となります。患者さんの感覚で圧を逃がせられる点でも安心です。

――どんな症状や病気の患者さんに有効ですか?

関根:呼吸筋に問題を抱え、呼吸障害を起こしているALS患者さんなどの神経筋疾患の方が主な対象となります。ただし、これは肺に陽圧を加えるものですので、肺に問題を抱える患者さん、たとえば気胸の人など、肺にダメージを受けやすい人は、利用を控えるよう説明しています。これも医療機器ですので、ドクターの最終判断で利用するかどうか決めるのが大前提です。

――個人の方が購入することも可能ですか?

関根:もちろん可能です。基本的には、患者さんが買いたいという意思を持ち、主治医の許可を得て購入するという流れが理想的ですね。ドクターが立ち会って、「この患者さんなら使っても大丈夫」と判断すれば、在宅でご家族と一緒に練習することもできます。また、訪問看護ステーションや訪問リハビリテーションで看護師や理学療法士の方に教えてもらいながら練習するというやり方も有効ですね。

目指すは“やわらか肺”をつくる

――ALSをはじめとする神経筋疾患の患者さんに対しては、これまでさまざまな呼吸療法が試みられてきました。LICトレーナ®ーは、それらとどの点が異なるのでしょう?

関根:これまでの呼吸障害を改善するための呼吸療法は、呼吸筋を鍛えるのがメインでした。このLICトレーナー®は、弱い筋肉でも肺を動かせるよう、やわらかくすることを目的とした医療機器です。

硬いボールをつぶすには強い筋肉が必要ですよね。けれどやわらかいボールであればそんなに筋肉がなくてもつぶせます。神経筋疾患の症状は、筋肉低下を防ぐのは難しいけれど、肺や胸郭をやわらかくすることは可能じゃないか? 肺や胸郭のコンプライアンス(柔軟性)が保てれば、呼吸筋が低下しても呼吸しやすくなるのではないか? そんなコンセプトで誕生したのがLICトレーナー®なんです。

――筋力低下の著しい患者さんは、呼吸筋を鍛えるトレーニングを毎日やるだけでも大変です。そんな厳しい状況にある患者さんの症状に合わせたコンセプトといえますね。

関根:基本的にALS患者さんは呼吸筋を動かせないから、肺が硬くなりやすい状態です。硬くなればなるほど、動かすのはますます大変になります。硬くなる一方で筋力も低下する。そうなるとますます肺を動かして呼吸するのは難しくなる。そんな負のスパイラルを防ぐためにも、まずは肺をやわらかくすることが大事なんです。

体操や口すぼめなどの呼吸療法と異なり、この機器では直接空気を送り込んで肺や胸郭をグッと押し上げてくれるので、効果も期待できます。効果を引き出すにはそれなりに高い圧を加えなければならず、大変な部分もありますが、コンプライアンスの改善を目指すという意味で、呼吸リハビリを実践されている方は試してみる価値はあると思います。

――では、1番の症状の改善ポイントは、肺がやわらかくなることですね。

関根:そうですね。だから、これを患者さんに見せるときは、いつもこう言っています。『やわらか肺を取り戻そう』と。肺や胸郭がやわらかくなれば、呼吸筋が落ちても呼吸しやすくなりますし、肺の機能も動かしやすくなる。肺は使わないでいると、機能がマヒして無気肺という症状に陥ります。LICトレーナー®でやわらか肺になるということは、無気肺の防止にもなるんです。

LICトレーナー®は空気をダイレクトに肺に送り込んでくれるので、気道も広がりやすくなり、痰の上がりも良くなります。それが排痰につながって、肺炎などの予防にも結びつきます。肺をやわらかくするだけで、いろいろな症状の改善が期待できます。

>>神経難病患者さんの呼吸障害とは? ALSを例に呼吸療法の種類と課題・問題を考える

重要なリスク対策

――LICトレーナー®を使うにあたり、気をつけるべきポイントは?

関根:やはり肺損傷のリスクが1番大きいですね。それを防止するために、ふたつのリスク管理を推奨しています。ひとつは、マノメーター(圧力計)を使う。これを見ながらLIC練習を行うとどれくらい圧力がかかっているか確認しながら操作できます。レッドゾーンといわれる赤い部分まできたら、圧力を下げて肺へのダメージを防ぎます。もちろん、患者さんによっては、圧力が20~30㎝H2Oくらいのイエローゾーンで危ない患者さんもいますので、そのあたりははやり医師と相談のうえで決めてもらうことになりますね。

もうひとつは、機器に内蔵された安全弁です。これは、バネ構造になっていて、60~70㎝H2Oの圧力がかかると自動的に空気が開放される仕組みになっています。マノメーターで圧力を管理しながら、それでも高い圧力がかかった場合は、この安全装置が作動します。今のところ肺損傷などの報告はありませんが、絶対起きないとはいえないので注意喚起などは徹底して行っています。

――患者さんの肺の状態を確認しながら、圧力管理することがリスク回避につながるわけですね。

関根:そうですね。逆に、肺のコンプライアンスがよくなって症状の改善が見られれば、もっと圧力を加えてもいいのかな、というケースもあります。圧力の基準は、一定ではなく、常に患者さんの肺のコンディションを見ながら、それにもっとも適した設定でリハビリを続けていくのが基本です。

――ALS患者さんの中には、手が動かせなくて介助者さんの力を借りて使用される方もいるかと思います。そういう場合はどのようにして意思の疎通を図るのですか?

関根:これは、患者さんと介助者さんがお互い意思確認できる方法であれば、何でも構いません。ALS患者さんの症状や進行度合は人それぞれですが、手や足の筋肉が使えなくなって、最後に残るのは目、という点では多くの場合共通しています。そのため、目配せやまばたきで合図を送ってもらうやり方が多いですね。いずれにしろ、上手く合図が送れる方法を話し合って決めもらうことになります。

>> LICトレーナーの正しい使い方

より便利に使ってもらうために

――LICトレーナー®を使い始めるベストなタイミングというのはありますか?

関根:目安としては、深呼吸が苦しくなったとき、肺活量が足りなくなったときなどを基本としていますが、使い出すタイミングは早ければ早いほどよい、とも考えます。ALSは進行性の病気ですので、発症するとどんどん筋力が低下する点に注意しなければなりません。そのため、できれば確定診断がついた時点で使い始めるのがベストですね。

早ければ早いに越したことはありませんが、症状がかなり進行した患者さんでも利用されている方はいます。これまでの例でいえば、人工呼吸器に乗って、意思の疎通も難しくなった患者さんがLICトレーナーを利用したケースもありました。

――人工呼吸器をすでに使っている患者さんが、LICトレーナー®を使うメリットとは何でしょう?

関根:人工呼吸器は確かに呼吸補助の有力な手段ですが、それでもやはり呼吸が浅くなりやすいという問題を抱えます。空気が上手く取り込めず、無気肺になるリスクも考慮しなければなりません。そんな呼吸が浅く楽に空気を取り込めない患者さんでも、LICトレーナー®を使うことで深呼吸の実感が得られやすくなります。実際にこの機器を使った患者さんはよく『大きな深呼吸みたいだね』『気持ちいいよ』とおっしゃってくれます。

肺のコンプライアンスを良くするということは、呼吸疾患のどの段階でも必要です。そういった意味では、病気が進行したとしても、使うという選択肢は十分あり得ると思いますね。

――LICトレーナー®の良さをこれからもどんどん伝えていくことが大切ですよね。今後、どのような取り組みを予定されていますか?

関根:これまで販売を中心にLICトレーナー®の普及活動に努めてきましたが、近々レンタルサービスを開始したいと思っています。まずは医療機関向けに10セットくらい貸し出し機器を準備しいて、1ヶ月間程度使ってみて欲しいです。もちろん、個人が欲しい場合でも、医療機関を通して使えるよう、しっかりサポートしていきます。

――まずは使ってみて、その良さを体感してもらうという取り組みですね。

関根:この機器を見ただけだと、一体どんな物なのか分からないという声も聞きます。けれど、1回使い方を見れば、よく理解できる、という声も多いんです。なので、これからはより身近に使える機会をどんどん増やしていきたいですね。

お問い合わせ先

● LIC練習に関するご質問・お問い合わせ
 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院リハビリテーション部
 理学療法主任 寄本 恵輔
 TEL:042-341-2711(代表)

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 カーターテクノロジーズ株式会社
 関根 孝志
 TEL:048-483-4810