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 前回に引き続き、医療機器製造業取得に向けた準備に関するテーマで今回も話を進めていく。今回は許可要件の3点目である物的要件の構造設備規則をどのように読み解き、どのように対応させていけばよいのかを、当社の事例に合わせて解説する。

 その前に、上の写真をみていただきたい(早速、購入したミラーレスカメラでの撮影 facebookページ)これは、当社の川口メディカルアトリエの打ち合わせテーブルに飾ってある花、ポプリである。花が好きだった父の思いを込めて、母が飾ってくれたのである。ぜひ、当社にお越しの際には、ところどころに飾ってある花(衛生的な観点から造花ではあるが)から癒やしを感じていただければと思っている。

 既に当社のウェブサイトをご確認いただければ分かると思うが、許可を受けた「川口メディカルアトリエ」はいわゆる普通のアパートの一室である。「えっ? アパートで医療機器製造業が取得できるの?」と思われるかも知れないが、答えは「できる」となる。当然、区分にも影響するが、第4号の包装・表示・保管区分は、アパートや自宅で取得するという事例がこれまでにあったようだったが(県庁薬務課の話)、第3号の一般区分において、アパートの一室で申請するというのは、あまり聞いたことがないと言われた。(やはりアパートでの取得は想定していないようなので、できれば工場や倉庫、店舗といった物件を第一選択で考えることをオススメする)
しかし、当日の査察では、査察官から「ちゃんとした工場ですね!」というコメントをわたしたちは引き出している。その評価を受けられた理由は、これから説明する構造設備規則をしっかり読み解き、対応したことに他ならない。なので、ウチの工場では「医療機器製造業を取得するのは無理だ」と諦めることはない。ハード的に、かなりの劣勢だったわたしたちの製造所(アパート)でも許可を所得できたので、自信を持って業許可取得作業に取り組んでいただきたい。皆さまに更なる勇気を与える意味で、恥を忍んで川口メディカルアトリエのリフォーム前の画像を公開するので、確認いただきたい。この状態から、業者に一切頼らずに自前のリフォームを行い、構造設備規則に準拠した製造所を作り上げた。

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 それでは、以下に構造設備規則に関する解釈および対応事例を紹介する。
 ただし、一般区分の製造所に対する構造設備規則のみを対象にすることをご了承いただきたい。

(構造設備規則の条文は青字

第14条 施行規則第26条第5項第三号の区分及び施行規則第36条第項第三号の区分の製造業者等の製造所の構造設備の基準は、次のとおりとする。

一 当該製造所の製品を製造するのに必要な設備及び器具を備えていること。

 これは当然のことなので、製造に必要な設備機器をそのまま備えれば良い。ただし、設備と言われると大きな加工機等を想像するかも知れないが、それは必要ないのである。どういうことかと説明する意味で、当社の例を紹介する。今回、わたしたちが製造予定の製品は、手術用器具である。詳細は秘密保持契約の関係上、お話できないが、構造的にはステンレス鋼の部品で組み上げる製品である。ステンレスの加工には、現在、ワイヤ放電加工機、フライス盤、旋盤等を用いている。では、この設備を全て備えた状態で、医療機器製造業の申請をしなければならないかと言うと、そこはちょっと違う。前回の記事で記したが、医療機器の部品だけを製作する場合は、医療機器製造業は不要なのである。部品加工は別工場または外注で行い、その部品の調達後の組立工程から医療機器製造業の範疇とすれば、必要な設備はそれほど多くないのである。ただし、部品の外注加工等の管理責任は、医療機器製造業者にあるので、そこは間違えないで欲しい。あくまで、部品加工の工程を許可範囲に含める必要はないと言っているだけである。

 ちなみに、当社が申請した製造するための設備及び器具は以下の通りである。
  ・超音波洗浄機
  ・部品乾燥機
  ・グラインダー
  ・一般工具

 以上である。用途としては、受け入れ後のステンレス部品類を洗浄し、部品乾燥機で乾燥する。乾燥後は一般工具(ドライバーやスパナ等)を用いて組み立てる。小傷落としのために少々グラインダーを用いるが、ラベル表示や包装作業は全て手作業で行う予定のため、設備はなし。作業台のみである。

 このように製造用の設備、器具と言ってもそれほど多くを備え必要はないことがご理解いただけたと思う。申請の際には、設備・器具名称、型式、メーカー、数量を記載したリストを提出する必要があるので、予め準備しておくことをお勧めする。

二 円滑かつ適切な作業を行うのに支障のないよう配置されており、かつ、清掃及び保守が容易なものであること。

 この要求事項は、設備器具の配置、清掃および保守に関してだが、それほど難しく捉える必要はない。設備器具は当然、作業性を考慮し配置されていると思うので、そのままレイアウト図に落とし込めば問題ない。当社の事例では、設備の配置について、事前相談の際に1点指摘を受けた。グラインダーを設置しているのだが、グラインダーを使用する際に金属粉等が舞うことが予想され他の製造中の製品に混入するのではないかということである。この点については、ハード的に囲い込んだ専用のエリア等を作ることはできないため、ソフト面での対応とした。具体的には、「グラインダー使用時の注意」という掲示を行い、他の作業を行っている時は、グラインダーの使用を禁止すること、グラインダー作業が終わった後に設備、その周辺を掃除すること等を掲示し、作業を徹底することで、配置転換やハード改善等は行わずに、了承を得ることができた。

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 申請時は、製造所の図面の中に設備機器の配置も入れ提示するため、許可後の配置転換は変更申請を必要とすることから、しっかり考えて配置して欲しい。

三 手洗設備、便所及び更衣を行う場所を有すること。

 これはそのままなのだが、手洗設備と便所、更衣を行う場所が必要になる。結構落とし穴なのだが、倉庫等を借りて製造所として申請しようとする場合、トイレは気が付くとしても、手洗設備つまり水道が引いてあるかを確認することを強くお勧めする。当社も当初、倉庫を借りて製造所としようと考えていた。その際、水道とトイレがなかったので、設置工事の見積をとったら、とんでもなく高かった。物件選びの際は必ず注意いただきたい。
では、この要求事項に対して当社の対応を紹介すると、トイレはもちろんアパートなので、設置されていたのでOKだったが、更衣室と手洗設備は、洗面所を更衣室と手洗設備とした。まず更衣だが、更衣室の設置の前にどのような更衣をして作業を行うかを考えなくてはならない。当社の場合は、部品の組立、一次包装等を行うことから、なるべく衣服の繊維や塵埃が付着または混入しないようにと考え、作業時は白衣を着用するようにした。通常の服の上から着るので、男女別の部屋も必要なく、更衣室にハンガーラックを設置し、そこに白衣を収納するようにした。次に手洗設備は、洗面所にある水道を使用することにした。手洗い用のハンドソープを設置し、手洗い後は、使い捨てのペーパータオルで水気を取るようにした。家庭では洗面所にタオル等をかけていると思うが、衛生面から考えるとタオルの交換頻度を別途定めて管理する必要があるため、使い捨てのペーパータオルかエアドライヤーを設置することをお勧めする。

 これら一連の更衣手順を整理すると、作業者はハンドソープで手洗を行い、ペーパータオルで水気を取る。その後、ニトリルグローブを装着し、白衣を着用するという具合だ。更衣室に設置したのは、ハンガーラック、棚(ペーパータオルと手袋を設置)とゴミ箱ぐらいだ。これで、要求事項を満たす「更衣する場所と手洗設備」が設置されたことになる。
当社の川口メディカルアトリエにおける更衣室の写真をご紹介する。「ホントだ、普通の洗面所だね」と言われてしまうかもだが、ちゃんとした更衣室である。

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 今回解説した構造設備規則は6項目あるうちの3項目である。どうだろうか?これならば、自分たちにも許可が取れるのではないか?、構造設備規則はそのように解釈すればいいのか?等、皆さまの理解が少しでも深まれば幸いである。但し、すべての本質は、医療機器としての品質を確保するためには、どのような製造所を設置・管理すればよいかを常に考えることである。このことを忘れてはならない。

 以上、今回は少々長くなってきたのでここまでとし、残りの項目は次回以降に説明させていただきたい。