以前のブログでも医療機器の開発は医療現場のニーズに基づき行われるべきであるとお話ししました。
今回の記事では、もう少し突っ込んだお話を紹介します。医療機器の開発には様々なニーズを踏まえてなされることは以前から解説している通りで、主に医師からのニーズが大きい要素となるのですが、他の関係者からの要望も無視できないことがあります。そこで、今回は「内視鏡の進化」を例に取り医療現場のどのようなニーズを吸収して発展してきたかを紹介します。
当初の内視鏡は、長いケーブルの先端に内視鏡カメラを連結したものでありました。このタイプでは、内視鏡カメラの向きを医師が自在に変えることができるため、消化器官内の内壁の撮影に非常に適していました。これは医師のニーズをおおよそ満たすものでありました。
しかしこのタイプの内視鏡を患者からみると、改善の余地がありました。それは口から挿入するケーブルの直径が太いがために、内視鏡ケーブルを飲み込む際にストレスを強いられるという点でした。実際に私も内視鏡検査を行ったことがありますが、あの太いケーブルを見ただけで大きなストレスを感じ、更に飲み込む際には何とも言えない感触が喉に残ったことを覚えております。このように医師の声だけでなく、患者からの要望を吸収することも医療機器を開発する上でのノウハウの要であります。そこで、より細いケーブルの内視鏡カメラが開発さ、これで、内視鏡の発展は終わりに到達したかに見えました。
しかし、医療現場で働く看護師からは別の視点でみた要望が別にありました。これに目を付けることが良い医療機器の開発のコツでもあると言えるかと思います。
看護師が懸念していたのは感染リスクでした。長いケーブルの内視鏡は、それだけ殺菌・消毒の手間がかかることになります。しかも、内視鏡カメラは高価であるために繰り返し使用する機器であり、そのため患者の体内に入れる機器であっても再利用する必要があるものでした。
この点を斬新な方法で改善した新型の内視鏡カメラが開発されました。それが、カプセル錠タイプの内視鏡カメラで、患者はそれを飲み込むことで内視鏡の撮影が可能となりました。この場合、カメラの向きは変えられませんが、全方位を撮影することで十分な撮影を可能としており、映像データは無線により患者体外の端末に送信される仕様となっています。
これによって、看護師は内視鏡カメラの殺菌・消毒作業から解放されました。各々のカプセル型内視鏡カメラは消毒されたパッケージ内に閉じ込められており、その場で消毒する作業はほぼ無くなりました。また、長いケーブルがない構造のため、診察室内のスペースも取らないというメリットもありました。また、患者にとっては、長いケーブルを飲み込んだままの状態で苦痛に耐える必要もなく、カプセル型内視鏡カメラは、排泄と同時に体外へ排出される。
この新型の開発によって、新たな局面が開けつつあります。従来は内視鏡カメラの撮影を避ける人が多く、そのため胃潰瘍などの疾患の早期発見の機会を医師が逃すことが少なくありませんでした。
しかし、この新型内視鏡カメラの登場によって、医師も患者に内視鏡検査を勧めやすくなり、結果として検査を受ける人が増えやすくなっています。これは、胃潰瘍を始めとする消化器系疾患の早期発見を促すものであり、結果として国民の健康向上に貢献することになったのです。
いかがだったでしょうか?
医療機器の開発にあたっては、医療現場のニーズが重要であり、その中心はあくまで医師であることは間違いありませんが、その周辺の医療従事者である看護師、更には患者の視点も重要であるという事例でした。
ぜひ、このような視点を入れながら医療機器の開発を進めていただければと思います。