LICトレーナーを発売して9ヶ月目に入りました。まだまだLICトレーナーの認知度は低い状況ではありますが、少しずつご使用いただける医療機関や患者さんが増えてきております。
呼吸筋が極端に低下したALSなどの神経筋疾患患者は、症状の進行も速く、常に肺のコンプライアンスを維持するための呼吸リハビリが必要不可欠です。LICトレーナーはそのための医療機器ですが「そもそもLICって何?」とお思いの方もいるかもしれません。今回は、LICの意味について、その有効性が確認された内容、LICを取り上げた媒体を紹介しつつご説明します。

LICとは?

LICの意味と効果、MICとの違いについてご説明します。

LICの説明

LICとは「Lung insufflation capacity」の略で、一方向弁バルブによる最大強制吸気量を意味します。呼吸筋が低下し、思うように自力で呼吸できない神経筋疾患の患者さんに対しては、LICによるダイレクトな空気吸入がベストであることを、アメリカのBachドクターが論文で発表、研究者たちの間で注目を集めました。(『一方向弁を利用した最大強制吸気量』2008年)LICは、弁が咽頭機能の役割を果たしてくれるため、airstock(息止め)ができない難病患者さんでも空気吸入を肺で受け止められるところに最大のメリットがあります。

最大強制吸気量とは?

MIC(最大強制吸気量)とは、ALSなどの神経難病患者に対し、肺と胸郭のコンプライアンス維持を目的に導入される呼吸トレーニングです。肺の柔らかさをキープできると同時に、無気肺の予防、気道を確保しての排痰にも効果があります。多くの医療現場で導入されている有効な呼吸リハビリの方法ですが、残念ながら症状の進行で息止めができないALS患者さんには導入できません。また、すでに気管切開して人工呼吸器を使っている患者さんも、同法でのリハビリは困難です。

LICの有効性



LICの吸気獲得能力の高さは、国内外問わず、多くの研究者が認めるところです。日本では、国立精神・神経医療研究センターにおける研究でその有効性が実証されました。

比較研究の紹介

研究分野では取り上げられることの多いLICですが、医療現場ではまだ普及しておらず、実用化に着手した医療機器メーカーもわずかにとどまります。そんな中、国立精神・神経医療研究センターでは、1方向弁による最大強制吸気量の有効性を実証すべく、MIC(最大強制吸気量)、PIC(弁バルブにおける最大強制吸気量)との比較検証実験を行いました。その結果を以下の表にまとめます。(いずれも肺活量100%とした患者さんに対し実施)

対象

吸気獲得量

実施困難度

MIC

145±14

3つの中でもっとも高い

PIC

155±20

MICより低い

LIC

185±21

もっとも低い

上記の表を見れば分かる通り、LICがもっとも多くの換気量を獲得できることが実証されたかたちです。さらには、患者の実施困難度を示すVASも、MICやPICと比べ、LICの低さが目立つという結果でした。
普及度や知名度ではMICに劣るものの、肺と胸郭の柔軟性を高めるうえでLICはより有効な方法であることが実証されたのです。

メリット

LICに見られる代表的なメリットは以下のものがあります。

l  息止めできない患者さんにも有効

l  無気肺の予防、排痰のトレーニングにもなる

l  陽圧になれていない患者さんでも安心してリハビリできる

l  比較的症状の軽い段階の患者さんから、気管切開を行って人工呼吸器に乗っている難病患者まで、幅広いフェーズの症状にも有効

l  呼吸筋が弱くなっている段階でも、深い呼吸の実感が得られる

l  医師の許可が得られれば、自宅でのトレーニングも可能

LICで患者さんの状態がどう変わる?

肺と胸郭のコンプライアンスを高めるLICトレーニングを実施することで、呼吸困難感の軽減、無気肺の防止、気道確保による排痰、感染症予防につながります。呼吸力の維持は日常の生活動作に影響を及ぼし、QOLの向上につながるでしょう。

ALSや筋ジストロフィー、パーキンソン病などの難病は、進行性のため、時間の経過とともにどんどん呼吸筋が衰え、肺活量も低下します。肺は使われなくなると機能の衰えは加速化し、柔軟性はますます低下して深い呼吸をするのがさらに困難となります。症状の悪化に伴い、非侵襲的人工呼吸器の利用も視野にリハビリ計画を立てる必要が生じます。人工呼吸器を使うとなると、生活上の制約・制限は避けられません。致し方ない部分はあるにせよ、少しでも人工呼吸器の利用を遅らせる努力が医療現場には求められるでしょう。

神経難病患者さんのQOLをいかに確保するかも、呼吸医療現場に課せられた課題です。さまざまな制約がかかる人工呼吸器の利用を遅らせる意味でも、LICなどの有効な呼吸リハビリ法の活用が望まれます。

LICが紹介されている媒体



LICはこれまでさまざまな媒体で取り上げられ、研究論文も発表されています。論文では、先にご紹介した『一方向弁を利用した最大強制吸気量』(米国医師Bach 2008年発表)が有名です。また、比較実験にも携わった国立精神・神経医療研究センター病院のリハビリテーション部理学療法主任・寄本恵輔先生のインタビュー記事が、リハビリ情報サイト『POST』も紹介されています。

【寄本恵輔先生】LIC TRAINER開発!神経筋疾患(ALSなど)の最先端リハビリとは?

書籍関係では、『神経難病領域のリハビリテーション実践アプローチ』(メジカルビュー社)があります。「パーキンソン病」「脊髄小脳変性症」「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」「筋ジストロフィー」の5つの疾患を紹介。さまざまなリハビリテーションを解説する中で、LICも取り上げています。

雑誌では、最新治療情報を交えながらさまざまな難病に関する問題解決のアイディアを提示する『難病と在宅ケア』(2014年6月号、2015年10月号)で、LICに関する特集記事を掲載しています。機会があればぜひご一読ください。