平成27年現在、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者は国内に9,434人いるとされています。年々増加傾向にあるALS患者数ですが、原因の解明には至っておらず、有効な治療法も見つかっていません。今回は、ALS患者さんに関する基本情報をお伝えするとともに、すべてのALS患者さんに取り入れてもらいたい生活上の工夫、医療現場で取り入れられているリハビリ方法などをご紹介します。

ALSとは?

ALSという病名自体、テレビなどで耳にしたことのある方は多いでしょう。ALSの正式名称は、「筋萎縮性側索硬化症」です。簡潔に説明すると、これは筋肉を動かす機能がどんどん失われていく難病で、現代医学の治療技術では症状の進行を抑えることは可能でも、完全に食い止めることはできません。

ALS症状のメカニズム

私たちの筋肉は、脳や末梢神経から送られてくる命令によってさまざまな動作が可能となります。その命令を伝える物質が運動ニューロンと呼ばれる運動神経細胞で、ALSはこの細胞が侵されることで発症します。ALS障害で筋肉そのものに異常が発生するわけではなく、それを動かす信号の役割を持つ運動ニューロンに障害が起きるのです。

随意筋と自律神経

人間の筋肉や神経、臓器を動かす機能として重要なのが、「随意筋」と「自律神経」です。

●随意筋……手や足など、自分の意思で動かせる筋肉(随意運動)

●自律神経……心臓や胃、肝臓など、自発的に動く臓器や器官を支配する神経

ALS障害で動かせなくなるのは随意筋で、自律神経は侵されません。そのため、どんなに筋肉がやせ衰え、症状が進行しても、患者さんの心臓や消化器官は元気に動いています。

呼吸筋は随意筋と自律神経、双方の働きが関係する

息を吸ったり、吐いたりする呼吸筋は、随意筋でありながら自律神経の働きも必要とします。ALSによって随意筋が侵されれば、呼吸筋も影響は避けられず、症状悪化に伴い呼吸筋はどんどん低下し、最終的には呼吸不全を引き起こしてしまいます。

国内患者の基本データ


ALSの患者数を年代別に見ていくと、中高年層に多く、発症数のピークは60歳~70歳であることが分かります。また、1975年当時416人しかいなかった患者数は、2015年現在、9,434人に増加。この40年間で20倍以上増えたことになります。


高齢者ほどALSの発症リスクは高く、性別で比較すれば女性より男性患者数のほうが多数を占めています。中高年の男性に発症者が多い傾向は、海外でも見られます。

これまでの傾向と、高齢化が進む現状を考えると、日本におけるALS患者数は今後ますます増えていくことが予想され、医療現場においては有効な治療方法の確立と日常生活の質を高めるリハビリ方法の開発に向けた取り組みが求められます。

毎日の生活でできること



ALSは進行性の難病で、完治させる治療法は見つかっていないといえ、症状を遅らせたり、緩和させたりする対症療法的な取り組みは極めて重要です。生活上の簡単な工夫を取り入れるだけで、QOLの確保につながり、効果的なリハビリに直結します。

杖で歩行を支える

足の筋肉もどんどん衰えるALS患者さんは、ひとりの力で歩行するのも困難な状態です。しかし、歩かなければ筋肉低下の症状は悪化する一方ですので、少しでも歩いて筋肉をつけるために、杖を使って歩くことが推奨されます。杖のタイプは患者さんの状態に合わせて選ぶことになりますが、まずは主治医もしくは理学療法士の先生に相談することになります。

会話がうまくできなくなったら……

私たちは舌やのどの筋肉を使うことで言葉を発し、相手とのコミュニケーションを成立させます。ALS患者さんはのどや舌の機能の低下、または嚥下障害を起こすため、通常の会話も難しくなります。やがて指先の筋肉も衰え、筆談も難しくなれば、それに変わる手段で周囲との意思疎通を図らなければなりません。
その時に有効なツールが、文字盤や単語帳、ボードなどです。「トイレ」「水」「散歩」などの日常動作や、よく利用する道具、毎日の日課などを表す単語を事前に記入しておけば、患者さんは指で指すだけで自分の意思を伝えることができます。

呼吸リハビリ

呼吸筋の正常な機能が失われ、呼吸困難感の増すALS患者さんの在宅医療では、呼吸療法や運動療法、排痰法などの呼吸ケアをメインとしたリハビリテーションが実施されます。肺や胸郭の柔軟性を確保するためのリハビリ方法には、腹式呼吸、トリフローⅡなどの呼吸ケアグッズの活用、MIC(最大強制吸気量)、LICなどがあります。

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対症療法をやるのとやらないのとでは、症状の進行ペースに大きな差があり、QOLにも影響します。生活の中でちょっとした工夫を取り入れて日常動作を改善し、継続的にリハビリを行っていくことが重要です。