医療機器制作事例

いよいよ具体的に医療機器製造業の取得ドキュメントを記すこととする。紹介する内容はすべて埼玉県で取得した当社の事例をもとに示す。(都道府県により、申請料金や名称など若干の違いはあるようだ)区分は一般のため、一般区分の話題が中心になることをご了承いただきたい。

当初、わたしたちは、医療機器製造業の許可取得に際して、専門家へコンサルティングを依頼しようと考えていた。インターネットの情報や仕事でご一緒いただいている企業様からの紹介などで依頼をしようと考えたが、それなりの費用が発生することがわかった。(試しに無料見積もりを取ってみることをお勧めする。数十万円の費用が必要になることがわかるはずだ。)
専門家にお願いした方が安心して許可取得作業を行えるメリットはあるのだが、わたしたちのように立ち上げて間もない小さい企業にとっては大きな支出であると判断し、自分たちで業許可を取得することにした。
ぜひ、これから医療機器製造業を取得しようと考えている企業のみなさまには自分たちでチャレンジすることをオススメする。自分たちでやる以上、薬事法を勉強しなければならいし、都道府県庁の薬務課との折衝もしなければならない。しかしながら、それらのプロセスを通して、得るものも大きく、また分からないことは薬務課に問い合わせれば大抵のことは教えてもらえる。できないのはやらないからであって、やればできるの精神である。(何処かで聞いたことあるような言い回しだが…)

では、早速、当社の医療機器製造業の取得ドキュメントをご紹介しながら、解説をする。

1. どの区分の許可を取得するのか?

最初に医療機器製造業の区分に関して整理することから始め、どの区分の許可を取得すれば良いのかを決定しよう。医療機器製造業は以下4つに分かれている。

第1号
 :細胞組織医療機器、特定生物由来製品、検定対象医療機器の製造工程の全部又は一部

第2号(滅菌区分)
 :滅菌医療機器(製造工程において滅菌される医療機器で第1号に掲げるものを除く)の製造工程の全部または一部

第3号(一般区分)
 :滅菌区分に掲げる医療機器以外の医療機器の製造工程の全部又は一部(包装・表示・保管区分に掲げるものを除く)

第4号(包装・表示・保管区分)
 :第2号、第3号の医療機器の製造工程のうち包装、表示又は保管のみ

製造販売業については、製造販売する医療機器のクラスに応じて業の区分がなされているが、製造業に関しては、クラスというよりは製造する品目の特性に応じての区分と製造工程に応じての区分という形式で分かれている。

この4つの区分を見て、自分たちの製造する医療機器をイメージし、どの区分の許可を取得すれば良いのか、まず見極めることが最初の一歩である。

ここで、良くある質問 その1

「医療機器の部品や試作機を作る場合はどの業を取得すれば良いのか?」

答えは「医療機器製造業の許可は不要」である。考えてみてほしい。医療機器に使用するボルト1個、ナット1個すべてが医療機器製造業を取得している企業で製作されているだろうか?違うことはすぐにイメージできるであろう。つまり、医療機器の部品だけを製作する場合や試作機だけを製作する場合は、医療機器製造業は不要なのである。あくまで、最終的な製品を製造する企業が業を取得しなければならないというルールである。

そして、わたしたちが取得したのは第3号にあたる一般区分である。
実際にわたしたちの製造予定の製品を事例にして、どの許可区分を取得すれば良いのか判断した様子を紹介する。

・細胞組織や生物学的といったバイオ製品ではない→第1号ではない。
・製造工程において滅菌する製品ではない→第2号ではない。
・滅菌区分に掲げる医療機器以外の製品である→第3号もしくは第4号
・製造工程の全部を対応する予定→第3号

このように第1号から製造する予定の品目と工程から確認を進めれば、必要な許可区分が導けるはずである。
許可を所得しようと考えている皆さまもぜひ、このようなステップで区分を判断いただければと思う。

ここで、良くある質問 その2

「滅菌医療機器とは、滅菌して使用するすべての医療機器が該当するのか?」

答えは「あくまで製造する過程で滅菌を行い、滅菌済みの状態で製品化されている製品のみが該当」する。
わたしたちが製造予定の医療機器も手術器具であることから使用前にオートクレーブで滅菌してから使用する器具である。が、製造工程で滅菌する訳ではなく、あくまで使用前に滅菌するため滅菌区分の対象にはならない。イメージしやすい製品としては「滅菌済みのシリンジ」等が良いかもしれない。滅菌されて包装されている製品等は滅菌区分に該当するので、区分を間違えないようにしていただきたい。

2.許可要件を理解する!

次に許可要件を見ていくことにする。
実は許可要件については、区分に関わらず、以下の人的要件と物的要件が要求されている。ただし、人的要件の2)に示した責任技術者の要件は許可区分ではなく、製造を予定している医療機器のクラスに応じて若干異なる。

人的要件
1) 申請者(法人の場合は業務を行う役員を含む)の人的要件が適合していること(薬事法第5条第3項に該当しない)
2) 資格(薬事法施行規則第91条)を満たす者が責任技術者として設置されること。

物的要件
3) 製造所の構造設備が、薬局等構造設備規則に適合すること。

え?この3つだけ?と質問されるケースも良くあるので、

ここで良くある質問 その3

「製造に関する文書類(製品標準書や作業手順書)は許可要件ではないのか?また、QMS該当製品を製造する場合は、QMS要件が満たされていなければ製造業許可は得られないか?」

答えは「医療機器製造業の許可要件は上述した3つの要件のみ」である。
まず、文書類については、許可申請時に必要となるものはない。ただし、製造業取得後に実際の製品の製造を行うに際しては製品標準書、製造記録書および作業手順書等の文書類が必要になるため、製造までに作成しなければならない。
また、QMSに関しても製造業取得の際に確認される事項ではなく、医療機器の製造販売承認を得る際にQMSの適合性調査を受けることになる。そのため、この医療機器製造業の許可要件には入ってこないというのが、実際である。

2.1.申請者の人的要件について

では、3つの要件について、1)の人的要件から具体的に見ていくことにする。1)の人的要件は以下の項目に該当しないことが要件である。

イ.法第75条第1項の規定により許可を取り消され、取り消しの日から3年を経過していない者
ロ.禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった後、3年を経過していない者
ハ.イ及びロに該当する者を除くほか、この法律、麻薬及び向精神薬取締法、毒物及び劇物取締法その他薬事に関する法令又はこれに基づく処分に違反し、その違反行為があった日から2年を経過していない者
ニ.成年被後見人又は麻薬、大麻、あへん若しくは覚せい剤の中毒者
ホ.精神の機能の障がいにより医療機器製造業開設者の業務を適正に行うにあたって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者

読んでいただければ分かると思うが、医療機器の製造に関わる以上、これらの項目に該当しないことは至極当然である。また、上記の項目の中で、ニ、ホについては、医師による診断書という形式で申請書類のパッケージとして提出が必要になる。診断書は特に検査等を行う必要はなく、かかりつけのお医者さんや近隣のクリニックでも簡単な問診で書いてもらえる。診療科は一般的な内科で問題ない。当社の場合もわたしが近隣にある内科・循環器科のクリニックで診断書を書いてもらった(診断書の発行手数料は3,150円であった)

2.2.責任技術者の資格について

次に責任技術者であるが、こちらの東京都の案内がわかりやすいので確認してほしい。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/k_iryou/k-sinsa/youshiki_down/youken/

主に学歴がポイントとなり、製造予定の医療機器クラスに応じて資格が異なるのでしっかり見て欲しい。当社の製造予定の手術器具はクラスⅠに該当することから、一般医療機器のみを扱う業者の資格が該当した。就業経験が不要になった分、要件は緩和されているが、どうしても理系の学歴が必要になる。当社は代表取締役のわたしが高専の工業化学科を卒業していること、設計・製作ディレクターが工業高校の機械科を卒業していることから、どちらも資格を満たしていることになる。これらは、自分の卒業した学校から卒業証明書を取り寄せ提出する必要がある。わたしは、習得した専門科目の単位に関する情報も必要なのかと思い、一緒に成績証明書も取り寄せ、申請時に提示したが、「これは要りません」とあっさり返されてしまった。あくまで卒業証明書だけで良いようだ。

2.3.物的要件 構造設備規則について

そして、3点目の要件である物的要件であるが、医療機器製造業はこの要件をどのように適合させるかがポイントになる。これは、構造設備規則の一文一文を確認しながら、具体的に当社がどのように構造設備規則に製造所を適合させてきたのかを長くなりそうなので、改めて次回解説したいと思う。少しお待ちいただきたい。

以上が医療機器製造業の取得を考える際に、最初に確認しておくべきことである、「区分と要件」の解説である。ポイントとしては、区分は、製造予定の医療機器の特性と製造工程から判断すること、許可要件は、人的要件において診断書、卒業証明書を用意しておくことが、準備の第一段階である。
では、次回は物的要件である構造設備規則について解説する。