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いよいよ医療機器製造業許可取得も最後の山場である実地調査である。当社の場合は、11月5日に許可申請書を提出してからちょうど1ヶ月後の12月5日に実地調査が行われた。今回の記事では、その実地調査の様子を紹介しながら、具体的にどのような対応を行ったのかを解説する。

1.何事も準備が重要!

 医療機器製造業許可の実地調査に限ったことではないが、何かに取り組む際に重要なことは「準備」である、とわたしは考える。学校では運動会や卒業式と言った大きな行事の前には必ず予行練習が行われ、スポーツの世界でも練習試合やオープン戦と言った本番を想定した練習が行われるのは常である。実際に以前、わたしが在籍していた製薬会社では、当局査察を前に模擬査察(社内の品質保証部門が調査員となり、本番の調査さながらに実地調査を行う)を行っていた。そう考えると今回の場合も、実地調査の予行練習を行うことが望ましかったのだが、当社の場合は、社員も少ないため、自社で予行練習を行うことができなかった。そこで、私自身が本番を想定して、多くのシミュレーションを行った。
 まず準備で行ったことは、当日の流れを設定することである。これまで私が経験した実地調査では基本的に以下の流れで調査が行われていた。


1) オープニング
2) 実地調査
3) 書類調査
4) クロージング


 これらの基本的な流れを今回の内容に当てはめると、3)の書類調査が不要となる。例えば医療機器のQMS査察や製造販売業の許可査察などでは、製造管理や品質管理の基準書や各種手順書、記録書と言った文書類も調査の対象となるが、今回、当社が申請した医療機器製造業(一般)では、書類調査がないため、オープニング→実地調査→クロージングと言った流れになることを想定し、以下のアジェンダのような流れを設定した。

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 そして、この流れに沿って、オープニング用の資料を作成し(ここでは事前相談に伺った際の資料をアップデートして準備した)、オープニングのプレゼン練習を繰り返した。また、実地調査では、説明する部屋の順番を設定し、実際のそれぞれの部屋で説明のシミュレーションを行った。

2.実地調査の当日!

 1.に示した準備を行いながら1ヶ月はあっという間に過ぎ、当日を迎えた。当日は午後1時から2時ぐらいに訪問するとのことだったので、早めの昼食を取り、川口メディカルアトリエで待機をしていた。1時を過ぎ、1時半を過ぎても到着されなかったので、少し様子を見ようと思い、外に出たところ、調査担当の方がちょうど到着したようであった。当社の製造所である川口メディカルアトリエは以前から紹介している通り、外観は普通のアパートであるため、迷われたようであった。(当社を訪問いただける方々は皆さん迷うようなので、何かアナウンスや工夫が必要かも知れない)
とりあえず、車を駐車場に止めていただき、早速製造所の中に案内した。当日、来ていただいた調査担当の方は2名、そのうち1名の方は事前相談に伺った際に対応していただいた方であった。また女性の方が来ると事前に聞いいていたので、女性用サイズの上履きも用意し、それを使って入室いただいた。事前相談の際に忘れてしまった名刺交換も今回はスムーズに行い、早速、当社が準備したアジェンダ案を提示し、このような流れで進めることを了解いただいた。

2.1.オープニング

 まず、担当者の紹介を行った。責任技術者でありカーターテクノロジーズ株式会社の代表取締役である私と、設計・製作を担当し、今回は製造担当者として対応する兄、更には各種試験を行う品質管理を担当する母の3名を紹介した。当社はすべて家族でやっている会社で、従業員の名前は全員「関根」であることを告げると少々場が和やかになった。続いて、会社概要から今回の申請内容を説明した。ここでは、調査の対象にはなっていないが、今後、製造を進める上で準備しようと考えている「作成予定の文書リスト」を提示した。そして、最後に現在開発中の試作機の実物を紹介した。やはり話をする上で現物は大きな効果があると思う。私自身も営業活動に行くときは、サンプル等を良く持参することがあるが、今回も「実際にこれを製造するのです」という説明は理解を深めていただく一助になったと思っている。
 こちらで準備したオープニングの内容を一通り説明した後「何かご質問はありますか?」と訪ねたところ「聞きたいと考えていた内容は全て説明いただけたので、大丈夫です」という回答を得られた。このコメントは、調査担当の方々が必要と思っていた情報を全てこちらから提示できたことが示唆されており、準備が万全であったことが証明された。

2.2.実地調査

 オープニングを終え、早速、各作業室の説明を現地にて行った。まずは、更衣室。手洗い、更衣手順を説明し、実際に備え付けている作業服や各種備品等も説明した。また、トイレも更衣室横に設置されていることを説明した。続いて製造室。製造室前には現在は製造が休止中である表示が行われていることから、所定の作業服でなく、そのまま入室を許可している旨を説明し、鍵を開けて製造所に入室した。(少々緊張していたので、上手く鍵を開けることができずに戸惑ってしまった…)製造室では、実際の作業の流れに沿って説明し、設置している製造設備・器具を紹介した。

「ちゃんとした工場ですね」

 今回の実地調査で最も嬉しかった言葉である。「普通のアパートの一室で医療機器製造業許可(一般)が取得できるか」というのが当社に取って最も大きなテーマであり、実地調査でもその点が大きな不安要素であった。しかしながら、製造室に入り、説明を続けている中で、上記の言葉がいただけたことは大きな安堵であった。続いて試験検査場所を紹介し、最後に保管室を説明した。一部、提出したリストと設置していた器具の型式が異なっているという指摘を受けたが、大きな改善要求のコメントはなかった。

2.3.クロージング

 実地調査を終えて、再び事務室に戻り、最後の総括を行った。機器リストの修正はただちに修正リストを提出することで了承を得て、その他指摘事項はないということになった。今後の予定としては、今回の実地調査の結果を精査し、製造業の許可を出すかどうかを近日中に連絡するとのことであった。できれば年内中に許可を取得したい旨を伝えたところ、問題なければ年内中に出せるであろうとの回答を得た。
 また、最後にこの製造所は自分たちで整備したことを紹介したところ「ドアは、アンティーク調で風合いがありますね」、「下駄箱も手作りなんですね」と多くの嬉しいコメントもいただけた。

 こうして、約1時間に渡る現地調査が終わった。私自身は、これまで企業に所属する立場で何度も査察を受けているが、やはり責任の重さなのか、今回の査察が最も緊張したし、終わった後の疲労感も大きかった。
 しかしながら、この大きな疲労感はすぐに吹き飛んでしまうような連絡が入る。現地調査から5日後(営業日ベースで言えば3日後)の12月10日、医療機器製造業の許可書が出来上がったので,県庁まで取りにきてくださいとの連絡があった。疲労感等すぐに吹き飛び大きな達成感に包まれた瞬間であった。わたしたちのような小さな町工場の企業でもしっかり準備をして対応すれば、このような許可が取れることを証明することができた。夏ぐらいから準備を進め、かれこれ4ヶ月程度かかったが、何とか許可を取得することができた。

 次回で「自分でできた!町工場が医療機器製造業を取得する方法」は完結の予定である。今回の医療機器製造業の取得を通じて得られたことや感想等を「終わりに際して」という形で紹介する。