10万人に2、3人の割合で罹患すると言われるALS(筋萎縮性側索硬化症)。その原因はいまだ特定できず、特効薬も開発されていません。そんな中でも、症状を遅らせる治療薬や対症療法、リハビリなどが医療現場などで導入され、患者さんのQOL向上に役立てられています。
今回は、有効な治療薬として国内でも認可されたリルゾール、最近あらたに誕生したラジカット、または症状に応じたALSの対症療法について詳しくご説明します。

ALS治療の重要性

今のところ、ALSは完治するのが難しい病気です。発症すれば筋肉や神経など重要な機能がどんどん低下し、最終的には人工呼吸器などの医療機器に頼らなければ生命維持も困難な状態になります。しかし患者さんの中には、治すことを目的に治療に取り組まれている方もおられます。完治が難しくても、症状の進行を可能な限り抑えることで、QOLの維持と向上につながることから、治療薬や対症療法、リハビリに対してはよりポジティブな考えを持つことも重要です。
現在、ALSの有効性を示す治療薬として国内認可を受けているのは、「リルゾール」と「ラジカット」です。

リルゾールについて



リルゾールは、国内で認可を受けているALS治療薬です。日本以外でも、アメリカ、カナダ、オーストラリア、欧州各国でも承認されています。

特徴

リルゾールは、グルタミン酸過剰説に基づいて開発された経緯があります。神経細胞であるシナプス間に異常発生したグルタミン酸の神経毒性をコントロールし、シナプスを保護するというメカニズムです。海外の臨床実験によると、発症5年未満、肺活量60%超、75歳未満のALS患者にリルゾールを投与した結果、生存期間が2~3ヶ月長くなるというエビデンスが報告されています。

期待される効果

ALS症状の進行抑制、生命延長に一定の効果が期待できます。しかし、発症期間が短い患者さんが対象ですので、症状が進行した患者さんへの適用は難しいです。

副作用

アナフィラキシー様症状

血管浮腫、呼吸困難、発汗などの異常や機能障害が認められる場合は、使用を中止してください。

好中球減少

好中球減少の報告もあり、発熱が認められた場合はただちに白血球数を測定し、減少していれば投与を中止しなければなりません。

間質性肺炎

間質性肺炎の報告もあり、発熱や呼吸困難が認められれば、使用を中止して必要な検査を行ってください。

肝機能障害

肝機能障害や黄疸などの症状が現れるケースもあります。異常が認められれば、使用を中止して主治医の指示に従い、適切な処置を受けてください。

使用できないケース

以下の症状を抱える患者さんは、リルゾールを使用できません。

● 肝機能障害のある方

● リルゾール成分に対し、過敏症を患った経験のある方

● 腎機能が低下している方

● 妊婦さん、もしくは妊娠の可能性のある方

リルゾールを投与する場合は、主治医の判断の下、適切なかたちで行うことが重要です。

ラジカットについて



ラジカット(エダラボン)は、田辺三菱製薬(株)が開発したALS治療薬です。使用するには条件があるので、治療を望まれる場合はまず主治医に相談してください。

特徴

さまざまな機能障害を引き起こす運動ニューロンの変性は、フリーラジカルの関与も一因とされています。フリーラジカルとは強力な酸化力を持つ物質で、これによって脂質の過酸化反応が起こると、細胞に大きなダメージを与え、運動ニューロンの死滅を招く可能性があります。つまりフリーラジカルを消去すれば、細胞の酸化を防ぎ、運動ニューロンを保護できます。この原理を用いて開発されたのがラジカットで、2回に及ぶ大規模治験の結果、ラジカットの使用により症状の進行を抑え、日常生活に良い影響をもたらすエビデンスが報告されています。

期待される効果

ALS患者さんにラジカットを投与すると、生活動作の改善、機能障害の進行抑制が確認されています。しかし、これもリルゾールと同じで、ALSを根本から治すものではありません。

副作用

ラジカットは脳梗塞患者の治療にも使われていますが、その中でごく一部の患者さんに腎機能障害や肝機能障害などの副作用が確認されています。

使用条件

ラジカットは、以下の条件を持つ方に限り、使用が認められています。

● 発症から2年以内の比較的軽い症状の患者さん

● 腎機能に特別な異常がないこと

ラジカットを使った治療もまた、主治医の判断の下、適切なかたちで行うことが重要です。

対症療法



ALSの治療では、さまざまな症状に応じて対症療法も実施されます。

筋肉のしびれや低下

ALSによって侵されるのは運動神経であって、筋肉そのものではありませんが、痛みやしびれなどの症状を引き起こすケースも見られます。その場合は、痛みを抑える鎮痛剤などが使用されます。しかし、逆に症状の悪化につながる可能性もあるため、医師の慎重な判断のもと実施されます。

嚥下障害

ALSでは舌の機能も失われることから、食べ物を上手く飲み込めないなどの症状も抱えます。症状が進行して食事も困難になれば、点滴による栄養補給、または胃ろう造設による流動食投与などの措置が取られます。

呼吸困難

ALSの症状が極度に悪化すると、呼吸筋が低下して呼吸障害に陥ります。自力での呼吸が困難となれば、酸素マスクを取り付ける非侵襲的人工呼吸器、気管切開して肺に直接空気を送り込む侵襲的人工呼吸器が用いられます。

治療法に関する情報をどこで仕入れる?



上記でご紹介したリルゾールやラジカットの使用に関しては、主治医の判断で行うことになります。今後もこうしたALS症状の抑制・改善に効果の期待できる治療薬の開発が望まれ、闘病中の患者さんやご家族にとっては、このような有益な情報がスムーズに手に入る環境が好ましいです。ALS患者さんやそのご家族らによって構成される日本ALS協会(JALSA)には、医療関係者や研修者、行政機関の職員もメンバーとして名を連ねています。こうした関係団体に加入することにより、治療薬に関する情報のほか、助成制度などの情報も比較的入手しやすくなります。

日本ALS協会ホームページ:http://alsjapan.org/